かぎ裂きお直し~スイカのワンピース~ 上

前回キャミソールのオーダーメイドを頼んでくださったO様から、また素敵なPINK HOUSE のワンピースが送られてきました。


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見事に左胸が裂けてしまっています。

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私は服というものは自分が着たいものを好きなように着るのが一番だと思っていますが、季節を感じさせる服、季節感を意識したスタイルも見ていて素敵ですよね。


このスイカ柄のワンピースも季節的にはまさに今、でしょう。夏至が過ぎそろそろ梅雨が明けて、これから暑くなるなぁという今頃から夏本番まで着るのがいいのではないでしょうか。
これがお盆を過ぎた頃になると
「あぁスイカか…今年はもう食べ飽きたなぁ」とか「今年はスイカ食べなかったなぁ~でもあんまり好きじゃないし、そろそろ林檎か梨でも食べたいわ…」とかいう気分になってしまい、服までもが旬を過ぎたように見える。そう考えるとスイカのワンピースの季節は短い。


でもこのワンピースの持ち主Oさんは春夏秋冬関係なく着るだろう。むしろ真冬の雪の日に、この上にムートンのコートなんかをふわっと羽織って着こなすのだ。
真冬のスイカのワンピース…そんな人が歩いていたら思わず振り返って見てしまうだろう。大衆の中でパッと目を引く、こういう人がお洒落な人なのではないかと私は思う。
ただ、真冬のスイカのワンピースを美しく思う人もいれば、場違いのように感じる人もいると思うので、何を重要視するかで着こなし方は変わってくるでしょう。
自分らしく着ることを第一とするか、客観性を重要視するか。



私自身といえば最近やっと客観性を意識するようになりました(そのつもり)。若かりし頃は人と同じ格好をするのが嫌で好き勝手に着ていました。とくに高校時代は私服の学校だったので、思いつきで何でも着て行っていた。
例えば…


・父の草野球チームのユニフォームシャツ(大きな"天一"というロゴ入り)
・父のラガーシャツ
若冲みたいなリアル鶏柄のベスト(古着)
・卒業式は皆は袴、振袖、スーツの中で私は全身古着(ドルマンスリーブのブラウスに膝下丈のフレアスカート、首にはスカーフ、Christian Diorのハンドバッグと色を合わせたヒール)




私は目立ちたいわけでも何かを主張したいわけでもなく、自分が今日はコレ!と思うものを着ていました。
野球のユニフォームを着て行った日のことはよく覚えています。朝私が教室のドアを開けると友人が私を見るなり

「Tちゃんが野球のユニフォーム着てきたぞぉーーー!!!」

と、驚きと笑いの混じった声で叫んだのだった。
予期せぬざわめき。
私はそんな反応を期待も予測もしていなかったのでちょっと恥ずかしかったのですが、こんなふうに服は話の取っ掛かりになったり、周りの人を楽しませることもできるので、そういうツールとして選んでみるのも良いのではないかと思います。


または、スティーブ・ジョブズのように同じアイテムを複数揃えて毎日同じ格好をしたり、ミニマリストのように最低限必要な分しか持たないようにすると、服選びに悩む時間や管理する時間を減らすことができ、画一化することによってその人らしさが際立ってくるとも思います。



つまり、周りの人をを傷つけることがなければ、いつどこで何を着てもいいのではないでしょうか。


大切なことは、選ぶことができる自由があり、何を着ていても後ろ指をさす人がいないこと、見た目で差別されないこと、そして自分自身が人を見た目だけで判断したりしていないか、どんな風に人を見て感じているか気づいていることだと、自分への戒めもこめて思います。





次回、ワンピースの直しに入ります~

社会の窓

「社会のまど、あいてますよ」



誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、このフレーズ。


社会の窓が開いている』とは、ズボンのファスナーが開いたままになっていることを本人に伝える婉曲な言い回しですが、近頃すっかり聞かなくなったと思うのは私だけでしょうか。


しかし先日「社会の窓が閉まらないのを直したい」という依頼を受け、久々に聞いたなぁと思い、そこから無性に気になりだしてしまいました。
そもそもどうしてこのような言い回しになったのか。
ググってしまえば早いのですが、その前に自分なりに考えてみることにしました。




ファスナー=窓 ということは、
ズボン=壁(家) といえる

ズボンの内側にあるのが自己、外側にあるのが社会(世界)

ズボンは自己と社会の境界線

ヒトは家の中では裸でいることが許されるが、外へ出るときには顔、手、足、腹以外の部分は見えないように覆われていなければならない(現代日本(宗教などで肌の露出を禁止されている人を除く)において)。

社会という公共の場(プールや温泉を除く)で、唯一体の露出が許されるのは排泄をするとき。

つまり、ズボンのファスナーというのは、自己という身体を解放し、社会と接触することができる唯一の扉であり窓なのである。




というふうに無理矢理こじつけてみましたが、正解はまったく違いました…。
検索するとすぐに出てきました。
(というか、文字をクリックすると説明でますね)


社会の窓とはNHKラジオの番組名で、普段見られないところが見える、という共通点からズボンのファスナーが開いていることもそう言われるようになったそうです。


それにしても、これを一番初めに例えて表現された方はすごいユーモアセンスです。
そして、どんどん広まって行った。
コトバって不思議だなぁと思います。
ちなみに「社会の窓」は主に男性に対して使われ、女性には「理科の窓」という言い方があったそうですが、こちらはあまり広まらなかったようです。




ふと思い出したことを。
私は文化服装学院のメンズデザインコース出身で、担任の先生は銀座の某老舗テーラーで修行された方でした。
パンツの製図の授業で、よく覚えていることがあります。


《右利きの人は性器が左側にあることが多い。左利きの人は右側。だから、たいていパンツの左前身頃のファスナー部分を右よりも3ミリくらいだけ膨らませたりすることがある。》


シンメトリーなパンツであれば、前・後のパターン(型紙)を作り、左右は同じパターンです。スーツのスラックスで左右に差をつけるというのはオーダーだからこそできることだと思いますが、問題は本当に右利きだと左側にある場合が多いのかという情報です。
いったいそれはどれ程の信憑性があるのだろうか。
概ね正しいとすれば、なぜなのか。
パンツの左身が上前であるからでしょうか。



また新たな疑問が湧いてきましたが、この情報はググっても答えを見つけられないのです…。
知ってどうするんだろう、という気もしますが。




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声なき声

今年から、重度心身障害児施設での衣類の繕いのボランティアを始めました。



重度心身障害とは重度の肢体不自由と重度の知的障害を合わせもつ障害で、その施設では200名以上の方々が医療と療育のケアを受けながら長期的に暮らしています。


未成年のうちは、保護者が介護をしながら自宅で生活をすることが多いそうですが、保護者の加齢とともに介護が困難になってくると、このような施設で暮らしていくことが多いそうです。




私はこのボランティアを見つけるまで、近所にこのような施設があることを知りませんでした。
知らなかった、というより視界に入っていても、見えていませんでした。
産まれてから一度も歩くことができずに生涯を終える人がいるということを、頭の隅で知っていても、それは他人事でした。




自分として産まれたくて産まれてきた人などおらず、産まれてきた時代も国も、育つ環境も選ぶことはできません。 
今の私が私であることは偶々そうであるだけで、今は健康に暮らしているけれど、今後なんらかの障害をもつ可能性もあります。
 
だから、目の前のどんな人も他人と思わずに、かかわっていきたい。

綺麗事ですが…。




例えば重度心身障害をもつ方は、Tシャツのタグが首にあたって痒かったとしても、自分で掻くこともできなければ、「かゆい、かいて。」と言うこともできません。
だから、できる限り想像をして、気付いてあげられるように、どうすれば着心地良く、過ごしやすくいられる服であるのか、考えながら繕っていこうと思います。



さほど痒くもないのに、「かいて!」と言える人が得をするような世の中で、それが悪いこととは思いません。
ただ、声を発することができない人の意思を、なかったことにはしたくないのです。




今の私にできることを、微々たることでも続けていこうと思います。



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キャミソール オーダーメイド

ご依頼主*O様

20年着用のPINK HOUSEのワンピース。
ご自身で繕いながら大切に着ていらっしゃったのですが、薄手の生地のため、着る度に破れるようになってしまいました。
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このワンピースはいつもインナーとして胸元のレースをちらりと覗かせて着用しているそうで、ワンピースの上半身部分のみあればいいとのことなので、新しい生地でこのワンピースと同じような上半身のみをキャミソールとして作ることにしました。


生地はO様がお持ちだった、PINK HOUSEの大判スカーフ(110×110)を使用します。レースも利用できそうです。
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元のワンピースは本来は腰にヒモが通っていて、ヒモを絞ることでふわっとブラウジングさせて着るようになっているため、ウエストにダーツは入っておらず、ズドーンとした筒状のシルエットです。
O様はメリハリのある身体のラインを出すのが好きな方なので、今回はウエストのヒモはなしにして、ウエストがくびれたシルエットになるように少し変えていこうと思います。



大体のサイズを計り、パターンをおこし、シーチングで仮縫いしてみます。
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胸元の浮いた部分など修正して、裾にもレースを着けることにしました。
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PINK HOUSE といえば、レース・リボン・ピンタックです。
今までPINK HOUSEの服をじっくりと見ることがなかったのですが、このワンピースのピンタックの細かさを間近で見たときには、やはりデザイナーの意志を感じずにはいられませんでした。
「インナーとして着るから、ピンタックはなくしてもかまわないわよ」、とO様はおっしゃいましたが、これは絶対に再現してみたい!と思わせる美しさがあったので、挑戦してみました。



そんなこんなで、仕上がりました。
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ボタンホールは手かがりです。
スーツの袖口の切羽なんかも、ミシンよりもハンドを好む方がいらっしゃいます。
イビツと思うか、温かみがあると思うか、人それぞれです。
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ピンタックがんばりました。


余った生地は再びスカーフ(50×50)になりました。f:id:akaitaner:20180401182831j:plain