『点』

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2016  S3  油彩



この絵は、20年前から頭の中にあったイメージを初めて外へ出した絵です。イメージとしては、真っ白なだだっ広い空間に、黒く小さな点がひとつあります。それはパソコンで打ったような機械的な点で、無機質な空間です。

私は11歳のときに誘拐されて、性的な暴行を受けました。そのことにより、警察や親や先生と接する中で、傷付くことが数多くありました。もともと私は自分の思っていることを伝えるのが苦手であったし(とくに小さい子ほど不安やこわい気持ちは表現しづらいと思う)、当時はインターネットもスクールカウンセラーもなかったので、吐き出す場がありませんでした。そんなときに、自然とこの絵のようなイメージが浮かび、この点を自分だと思い込めばいいんだ!と思いました。辛くてたまらなくなったときにこの点を思い浮かべると、何も感じなくなるような、感情が麻痺したような感覚になり、とりあえず狂うことなく生きることができました。今思えば離人症の一歩手前のような感覚かもしれません。生存本能がそうさせてくれたのでしょう。その頃、自分は何も感じないロボット人間だ、という詩を書いた覚えもあります。


それから、中学・高校は勉強や部活に忙しく、服飾関係の仕事に就きたいという夢があったので、次第に点の存在は忘れていきました。大人になってからも忙しくしているうちは点の存在を忘れていました。ですが、いろんなことで躓いたときに、奥底にいた点が再び現れました。20年経っても消えていないなんて、思ってもみないことでした。これは外へ出してあげなければならない気がしました。手放す、とか、昇華する、という行為だと思います。


一人で家で描くだけでよかったのですが、その頃の家は5畳のワンルーム賃貸だったので油絵を描くスペースがなく、絵画教室へ通い始めました。最初からこんな絵を皆の前で描いたら変に思われると思いましたが、そう言っていられないほどの描きたい衝動がありました。

幸い、先生も生徒さんも暖かい方ばかりで本当に恵まれました。おもしろいね、とかそれぞれ感想を言ってくださり、それは私の想いとは違っても、ちゃんと『絵』として見てもらえたことが嬉しく、他者に見てもらえたことで、さらに昇華されたように感じました。



しかしながら、もし何かで悩んでいる人がいたら、自分を点だと思い込む方法はおすすめしません。だって、あなたは小さな点なんかじゃないから。感情をもった人間だから。素直なそのままで生きることを願っています。